アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル 85点
「役者の演技が素晴らしい、事実は小説より奇なるコメディの良作」
どこまでが真実なのかは分からないけれど、これほど貧乏なレッドネックの家庭に育った人が、フィギュアスケートで全米トップ、オリンピックで上位に入ったということにまず驚く。
基本的にはトーニャに同情的になるようなストーリーなのだが、何かが起こるたびに"That’s not my fault”を連発して、根本的には反省のない人物として描かれている。
アカデミー賞助演女優賞のアリソン・ジャネイや主演女優賞ノミネートのマーゴット・ロビーの名演は言わずもがなだが、元夫役の「バッキー」セバスチャン・スタンの典型的なDV夫振りがよかった。
ストーリーもコミカルでおもしろく、スケーティングの場面では緊迫感もあり、不幸な話なんだけれど、楽しみながら観られるよい作品でした。お薦めです。
シェイプ・オブ・ウォーター 95点
「半魚人と唖の女性との美しく哀しい恋愛お伽話」
「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロ監督が贈る、ミュートのサリー・ホーキンス演じる主人公と半魚人(というか両生類のクリーチャー)のラブ・ストーリー。
荒唐無稽な設定なんだけれど、気の利いた小道具やちょっとした行動の演出によって、見事なまでに感情が吸い込まれていく。一面的ではあるが端的な描写で、悪役のマイケル・シャノンにすらある種の悲哀を感じさせる。
1960年代の設定だと思われるが、街の雰囲気、随所に出てくると映画、流れる音楽等、すべてが素晴らしく表現豊か。「美人とは言えない」と形容されがちな主人公がこの上なく愛おしくなる、という物語運び演出が見事。傑作。
今年度ベスト候補レベルで、お薦めです。
※R18なので、若干の性的描写・暴力描写があります。
スリー・ビルボード 90点
「3枚の’看板’俳優の名演が際立つ、哀しみや諦観からわずかな希望を見出す作品」
文字通り3枚の「看板」俳優の演技が際立つ作品。周到な脚本と演出で、よい意味で予想を裏切る先の読めない展開が続いていく。
エピソードの各所にさまざまな隠喩が散りばめられており、人々のステロタイプ的なものの見方は最後まで解消されることはない。
それでも、いくつかのシーンであらわれる「良心」やラストシーンでは、不思議な前向きな感動がじわじわと生まれてくる。傑作といってよい作品だと思う。落ち着いた週末の夜にお酒を傾けながら観ることが、お薦めです。
アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー 90点
「マーベル10年の集大成、金字塔的な役目をきっちりと果たす大傑作」
2008年の「アイアンマン」*1「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」の10周年にして、これまでの作品の集大成的作品。
20人以上の多くのヒーロー達を「使い切って」、きちんとひとつの深みのある物語にする洗練度合いに、まず唸らされた。
今回の主役は最後のヴィラン・サノス。(パンフレットを読むと本人はいろいろ思いがあるようだったが)ジョシュ・ブローリンの「眼」の演技力が活かされた'人間'味のある演出で、ストーリーの軸としての役割をしっかりと果たしていた。戦闘シーンはこれまでの総まとめということで、そこまでの目新しさはなかったけれど、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」でも観られたルッソ兄弟らしい完璧な交通整理で充分に満足。
いくつかのヒントや、行く人行かない人のセレクションから次回作以降への「禅譲」への布石があり、きちんと楽しみを作ってくれている。
映画史にある種の革命を起こした10年間の集大成として、素晴らしい作品だと思います。
お薦めです。
【これまでのMCU作品のおさらい】
フェーズ1
フェーズ2
フェーズ3
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2018年8月31日公開「アントマン&ワスプ」
2019年公開予定「キャプテン・マーベル」(主演はなんと、ブリー・ラーソン)*2
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*1:日本では、「インクレディブル・ハルク」のほうが先に公開 から始まる
*2:「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」のラスト、ニック・フューリーが連絡しようとしていた相手がキャプテン・マーベル
ザ・コンサルタント 85点
ザ・マミー/呪われた砂漠の王女 65点
「終わってみたら『そういうことね』と思うけれど、さすがに脚本・演出に難あり」
ユニバーサル映画の持つモンスターのキャラクタを使って同一の世界観でシリーズを構成する「ダーク・ユニバース」の第1弾作品。
ここのところのトム・クルーズ作品はハズレがなかったこともあり期待していたけれど、「第1弾」としての未知の設定らしきものが多いので、展開が早いわりにストーリーがつかみづらくチグハグで感情移入の難しい作品。
ラストで「ああこれはトム・クルーズ演じるニックが『ザ・マミー』になる作品だったんだ」ということが分かってなるほどと思うし、アクションシーンは派手でよいし、ソフィア・ブテラもよく、随所に笑える場面もあるんだけれど、全体としては少し残念な作品になってしまった。
これから「ダーク・ユニバース」を観続けるつもりの人には、少しお薦めです。
ボーダーライン 90点
「名優二人の怪演が光る、一筋縄ではいかない良質なサスペンス」
「ブレードランナー 2049」 「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督がおくる、メキシコ麻薬カルテルを題材にした重苦しいサスペンス・アクション。
邦題「ボーダーライン」は、米国とメキシコ'国境'という意味はもちろん、善悪の’境界線’をテーマにした、シリアスで一筋縄ではいかないストーリー。なんといっても、ヨハン・ヨハンソンの劇伴が、その重苦しすぎるストーリーに素晴らしい効果を与えている。
謎の多い人物を演じるベニチオ・デル・トロや鼻持ちならない軍関係者らしいジョシュ・ブローリンの二人の怪演*1が素晴らしく、エミリー・ブラント演じる主人公を精神的に追い込んでいく。
観れば観るほど評価が上がっていく素晴らしいサスペンスで、お薦めです。
追記:続編「SICARIO 2: DAY OF THE SOLDADO」が2018年6月に公開予定です。楽しみ。
*1:本作を観ていると、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」でのいちゃいちゃが楽しい。