否定と肯定 75点
「レイチェル・ワイズがレイチェルしている、ストレートな作品」
結末がわかっている物語なんだけれど、「オリエント急行殺人事件」同様、特にサプライズもなく淡々と展開されていく。
レイチェル・ワイズは「ナイロビの蜂」の頃からのいつものレイチェル・ワイズで、学者にしてはちょっとエモーショナルに過ぎる演出。
どこか捉えどころのないアンドリュー・スコット(BBC版「SHERLOCK」のモリアーティ教授役や「007 SPECTRE」のC役)の演技はよかった。
テーマについても、オウベイなら切実かもしれないけれど、自分には思想的に少し押し付けがましくて、かえってあまり心に響かなかった。
「トランプ時代」らしい昨今の一連の作品群のなかでも、ストレートな一本。
お薦めです。
アトミック・ブロンド 85点
「本格女性アクションの新たな金字塔、アクション・演技・音楽、三拍子揃った名作」
「ジョン・ウィック」で、ポスト「ボーン」シリーズのアクションを体現してみせた8711のデヴィッド・リーチ監督が、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」での名演が記憶に新しいアカデミー賞女優シャーリーズ・セロンとタッグを組んだ、本格スパイ・アクションもの。
非力な女性ならではのリアルな体技を用いたアクション・シーンはもちろん、「裏切りのサーカス」のような本格エスピオナージもののストーリー展開もよく練られており、一見の価値あり。
ある種充満したエネルギーのある'89年のベルリンの壁崩壊を時代背景に、当時の音楽が効果的に使われ、唸らされる。
OSTはよいんだけれど、これが入っていないのが残念ですね。
パンフレットの宇野維正氏の解説にあるように、これは1981年の曲なんだけれど、1990年のこの曲のサンプリングに使われている曲。最後の場面のテレビ放送で、「サンプリングの是非」に関する話題が出ていて、DJのミックス的に「大きな時代の変化」を暗示していて、実はなかなか深い選曲でもある。
お薦めです。
2017年のベスト8位にランクしました。
勝手にふるえてろ 90点
15時17分、パリ行き 95点
「真実の圧倒的な説得力を、驚きのキャスティングと演出で証明した金字塔的作品」
ごく普通の人間(たち)が英雄になる話、と言ってしまうと「ハドソン川の奇跡」と同じだけれど、前作では限定的だった主人公(サリー)自身の描写(人格やキャリア)が、3人の生い立ちや欧州旅行パートを通して描かれるため、「我々の隣にいる若者」というところのリアリティが増しているとともに、伏線となるパズルのピース(救護知識、柔術、など)が散りばめられていて、しっかりとストーリーを形作っている。
トレーラーはややミスリーディングで、クリント・イーストウッド監督が描きたかったのは、むしろ「英雄的行為」のタネはともすれば退屈な日常の中に埋もれている、ということではないだろうか。しかし、実際の関係者でちゃんと映画になってしまうとは、驚き。
いろいろな意味で実験的な作品だけれど、素晴らしいかたちで結実していると思う。
お薦めです。
ジャスティス・リーグ 85点
「MCUとは一味違ったDCEUらしさがよく出た映画になっていて、ひと安心」
これまでの暗くて陰鬱なイメージのDCEU作品に通じていた、ザック・スナイダーらしい暗くて派手な演出を、引き継いだ「アベンジャーズ」のジョス・ウェドンがテンポよく処理しており、ヒーローらの活躍が格段にわかりやすくなっていた。
スローモーションを多用する演出も、フラッシュというキャラクターにより合理的に見せられるため、それほどくどく感じなかった。
MCUの「アベンジャーズ」や「シビル・ウォー」ほど「お見事」と言えるような連携プレーは見られなかったけれど、役割分担が合理的で総じてよいアクションシーンだった。しかし、やっぱりスーパーマン強過ぎ。
ワンダーウーマンやハーレイ・クインなど魅力的な女性キャラクター頼みだったDCEUだけれど、ここにきてようやく期待が持てるようになってきましたね。お薦めです。
これまでのDCEUシリーズ
今後公開予定の作品
2018年12月21日「アクアマン」
2019年「シャザム/キャプテン・マーベル」
2019年「ワンダーウーマン2」
2020年「サイボーグ」
2020年「グリーンランタン・コァ」
アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル 85点
「役者の演技が素晴らしい、事実は小説より奇なるコメディの良作」
どこまでが真実なのかは分からないけれど、これほど貧乏なレッドネックの家庭に育った人が、フィギュアスケートで全米トップ、オリンピックで上位に入ったということにまず驚く。
基本的にはトーニャに同情的になるようなストーリーなのだが、何かが起こるたびに"That’s not my fault”を連発して、根本的には反省のない人物として描かれている。
アカデミー賞助演女優賞のアリソン・ジャネイや主演女優賞ノミネートのマーゴット・ロビーの名演は言わずもがなだが、元夫役の「バッキー」セバスチャン・スタンの典型的なDV夫振りがよかった。
ストーリーもコミカルでおもしろく、スケーティングの場面では緊迫感もあり、不幸な話なんだけれど、楽しみながら観られるよい作品でした。お薦めです。
シェイプ・オブ・ウォーター 95点
「半魚人と唖の女性との美しく哀しい恋愛お伽話」
「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロ監督が贈る、ミュートのサリー・ホーキンス演じる主人公と半魚人(というか両生類のクリーチャー)のラブ・ストーリー。
荒唐無稽な設定なんだけれど、気の利いた小道具やちょっとした行動の演出によって、見事なまでに感情が吸い込まれていく。一面的ではあるが端的な描写で、悪役のマイケル・シャノンにすらある種の悲哀を感じさせる。
1960年代の設定だと思われるが、街の雰囲気、随所に出てくると映画、流れる音楽等、すべてが素晴らしく表現豊か。「美人とは言えない」と形容されがちな主人公がこの上なく愛おしくなる、という物語運び演出が見事。傑作。
今年度ベスト候補レベルで、お薦めです。
※R18なので、若干の性的描写・暴力描写があります。